こ
と
み
受験という単語を聞くたびに最近ビクっとします。
恐ろしいです。
タスケテ。
話は代わってL4D2.
以前はちょっとカクついた瞬間、ぶっつん真っ青な画面、というパターンだらけでした。
が、最近その症状はなくなり、現在はカクついた瞬間ぶっつんクライアントが消え去る状況です。
プレイできねぇorz
さて、皆忙しそうだけど一応追記に放り込んでおこう。
冠山麓廃墟。
一階、大広間。
そこにいるのは総勢5名。
桂木 修司。
木本 達也。
金谷 カズタカ。
高原 徹。
そして
「そうだなぁ、まぁ『クマさん』とでも呼んでくれ!それで通ってる!」
クマさん。
***
「はっ、いいのかぁ?せっかくの資金源なんだろ?」
「なに、お前さん一人が突っ込んで犬死したらワシがここに連れてきた意味がないだけだ」
「あぁ?誰が死ぬんだよ」
犬死。
どうやらその言葉が気に入らなかったようだ。
「お前さんはワシが金の為だけにいいなりになっていたとでも思っておるのか?」
他のモノならいざ知らず、ワシは最後まで賛成ではなかった。
お前さんら『護衛』がいない日時を調べ、その日を狙って襲うこともできる。
金など学園の中から持ち出せばよい。
だが、そうできない理由があった。
「お前さんら、学園の周りの壁を覚えておるか?」
クマ男が突然、僕ら(カズタカ、木本、そして僕に)話を振ってきた。
壁、壁って北門と南門以外を覆っているあの壁だよな。
「忘れる方がどうかと思うけど」
存在感しかないからな、あれ。
「あの壁があるからワシらは律正を落とせない」
「は?」
「ありゃ教頭の”アビリティ”そのものだ」
”土塊の城砦”通称『グレートウォール』。
直径5~6mほどの壁をいくつも使役することができる。
それらの壁は、地面を通じてホルダーとつながっており、一定距離内であれば自由自在に稼働することができる。
稼働イコール破壊行動なのは無論。
ただし、その範囲から外れると、操作は遮断され、ただの土として活動を停止する。
壁、いわばゴーレム、は確固とした実態があるわけではなく、ただの土石の中から創造することも可能。
ゴーレムの使役数がスキル次第なのは無論のこと、そのゴーレムの武装量もそれに相当する。
しばしの沈黙が流れた。
その静寂を破ったのは意外にも木本であった。
「っつーことは俺らが当てにしてた北門、南門以外は安全ってぇのは・・・・」
「その壁が立ちふさがっているから攻撃できん」
あれ全部がゴーレムで出来てるっていうのか・・・・。
難攻不落、なるほどなぁ。
「律正からは門への侵入であれば壁は使用しない、という条件付きだった」
何回も攻められ、何回も追い返していた門での戦闘。
周りの壁は攻めにくいというだけで、数mであれば土台でも、はしごでも使えば登れないこともない。
門ばっかり攻められる、というのだから生徒は門で待機する。
その裏をかいて、壁をよじ登って侵入すれば挟み撃ちが可能となる。
だけどそれをしたら思いっきり、はしごなりを立てかけている、壁が攻撃を仕掛けてくるって訳か。
そして万が一生徒が防衛を果たせなかった場合も、壁で対処する、という保険な訳だ。
用意周到なことだ。
「だったら結局無理なんじゃねーか」
木本の言うとおりだ。
ってかさっきから話に加わってるけど、コイツ参加する気なの。
血気盛んって困ったなぁ。
「なぁに、その壁全部壊す訳じゃない。少しの時間、抑えるだけなら出来よう」
数でゴーレムを抑える。
そして質で攻撃する。
「その隙にお前さんがやってくれれば陥落だ」
指差した先にいたのは勿論『トリガーハッピー』桂木 修司だ。
***
律正学園、北門。
「改めて立って見ても、感慨なんて湧かねえもんだな」
今から攻め入るのが母校だと言うのにずいぶんと暢気なことだ。
何度も学校を変わっていればこんなものなのだろうか。
「こんなもんを恋は守ってたなんてなぁ」
数刻前は守ると誓い、今は潰すと決めている。
「我ながらかっるい気持ちだねぇ」
でも悪くない。
と、言うよりはむしろ気分がいい。
「これでやっと仇討ちが出来るってもんだ」
学園全員”皆殺し”だ。
気がかりがあるとすれば
「何でお前らが居るの」
***
「改めて見てもやっぱでっけえよなぁ・・・・」
「だよなぁ・・・・」
カズタカと二人でほんわかと感嘆。
春が丘もこれくらいでっかかったらいいのに。
「あんなとこじゃなくてこんだけでけぇの統括できたら楽しいだろうな」
木本もまた物騒なことを言ってくれる。
「こんだけでっかかったら他のいい男なんていっぱいいるから如月さんが振りむいてくれないよ」
「そ、おいおい、そんなこったぁねぇだろう、よ?」
そんなに動揺しなくても、今も振りむいていないよ・・・・。
ちょっと罪悪感。
そんな僕らにお声がかかった。
「何でお前らが居るの」
「何でって・・・・」
ひどいなぁ。
「そりゃあ僕らもお助け参拝ってやつだよ」
「カズタカは帰って国語のお勉強」
「えっ」
律正学園北門にいるのは総勢5名。
クマさんの手下はこの学園の周囲を囲うように待機している。
時刻は午後6時前。
6時になれば、この地区一斉に地域放送の鐘が鳴る。
合図はその音。
律正学園総攻撃の開始だ。
それまでは僕らも侵攻待機。
「いや、だから、お前ら来る理由ねえじゃん」
「まぁ俺は帰ったってよかったんだけどな」
と、木本が。
「高っちょが行くって言うんだもの」
と、カズタカが。
「最後まで付き合うよ」
と、僕が言う。
そんな僕らを見てはぁっとため息をついた。
「なんだよドラ○エかよ。勇者様ご一行かよ。勝手にしろ」
「カハハ!さぁて小僧ども、本番は近いぞ!」
***
「ちょまっ、まだですって!」
「だから!タイミングが重要なんすよ」
「タイ、ミング?」
「そうっすよ」
「今出てってもありがたみとかインパクトが足りないですって!」
「いや、でも私はそんなもの・・・・」
「何いってんすか!!」
「めちゃんこ重要っすよ!」
「それで勝敗が決まると言っても過言ではないっす!」
「で、では私はいつ出ればいいのだ?」
「もうちょっと後っす」
「確実に今じゃないもう少し後っす」
「後・・・・」
「そんときは俺らが合図するんで、しゃきっと決めたってください!」
「勿論出るときはあれでお願いしますよ!」
「本当にそれでいいのか?」
「ばっちりっすよ!」
「完璧っす!」
「最強ですって!」
「無敵っす!」
***
りんごーん、りんごーんと町のいたる所に設置されたスピーカーから録音された鐘の音が鳴った。
かすかに、だが風に乗せられて「うおおおおお」という声がした。
「さって、じゃあ俺らも行くか」
木本が<アーマー>と唱えて武装する。
「ファイッ!」
カズタカはそんなよくわからない掛け声とともに立ち上がる。
「カハハ!やったるかぁ!」
クマさんは常時武装してるようなもんだから、そのままスタコラと歩き出す。
「よし!」
そして僕も<サモン>を唱えて動き出す。
潰すは客席という狂った空間。
壊すは見世物というイカレタ環境。
守るはぶち壊すための弾丸。
「行くぞ小僧らぁ!カハハハハハハ!」
クマさんの声が轟き、周囲で「わあああ」という音が被さり、増強した。
***
「ぞくぞくしちゃうわぁ」
「まだかねっ!?まだかねっ!?早く見せておくれよ!?」
ざわざわと、モニターに囲まれた部屋で、人が騒ぐ。
その人らは皆一様に目をギラギラと光らせ、今か今かとショーを楽しみに待つ。
「そんなに焦らずとも、もうすぐご覧にいれましょう」
パチリ、と指が鳴らされると、部屋にある一番大きなモニターが切り替わった。
その画面には一人の男性が写っている。
場所は、ど真ん中に建つ校舎の屋上。
そこにマイクを持って立っていた。
「おお・・・・」
「遂に見れるんだね!?」
「これぞ戦争!これぞリアル!」
司会の男なのだろうか、先ほどの男がもう一度指を鳴らす。
「そして、これが我が校の実践部隊です」
またも大きなモニターが、今度は数個に画面が分割されて、表示される。
そこにはこの学園の制服を着た生徒達がいた。
「今までは問題児ばかりを使った粗野なままごとでした・・・・」
至極残念そうな調子で司会者が呟く。
「しかし!今日、これよりお見せしますショーは全く別物でございます」
一転、気分を高揚させ、この部屋の空気を支配する。
その男の言葉に、観客はゴクリと唾を飲み込む。
「これぞ見世物であり、本物なのでございます」
左手を胸に当て、右手は大きく広げられ、顔はやや高く上げられ、声高々に。
「ゆっくりと、心行くまでご堪能くださいませ」
右手を降ろし、腰を曲げ、頭を下げる。
その前置きに拍手が湧きおこった。
「やっとだね!?やっと!?」
「ようやくメインディッシュだ!」
「こんなに楽しみなのは久しぶりだよ・・・・!」
より一層部屋の熱気は上がり、興奮に体が震える。
その歓声を後に、司会者の男は部屋を出た。
「ふふ、ふふふふふ」
その口から笑い声が漏れる。
「ふふふふふふ!」
さきほどまで曲げられていた腰は、今や大きく伸ばされ、むしろ反らされている。
「再利用させてもらいませんとねぇ・・・・金谷君、高原君、協力感謝しますよ・・・・ふふ、ふふふ」
***
ジジジジジ、という不協和音が鳴り、さっきまでの勢いが、出鼻をくじかれる形で、下がる。
「なんだぁ?」
その不快音に木本が顔をゆがめる。
「校内、放送?」
そう、それはこの学校に設置されているスピーカー全てから流れてきた音だった。
《んん、あ、あー、あー》
音を確かめるかのように短音が流れてきた。
すごいおっさん、下手するとおじいさんの声だった。
《えー、そこらに散らばっているであろうカスども》
そのおじいさんの声で凄いこと言われた。
「なんだ、と・・・・」
即効で木本が反応してらっしゃる。
おい、誰か暴れないように見張ってろよ。
《この攻撃は指定していない。したがって反逆と見なす》
「何が反逆だよ・・・・」
このおっちゃんボイスにはもう騙されんぞ。
この声の主は倒すべき敵第一号だ。
《よってこれより駆逐を開始する。異論など認めんし、聞かん。さっさとくたばれ》
その声を最後にブチリとまた嫌な断絶音がした。
どうやらスピーチはこれで終わりのようだ。
と、演説が終わったと思えば、律正の周りに建つ壁がゴゴゴゴゴと動き始めた。
「ゴ、ゴーレム?!」
「何枚あんの・・・・これ全部で」
「別に倒さなくていんだろ?おら、さっさと行け」
「カハハハ!その通り!さぁ進め『トリガーハッピー』!」
「ったく、忙しい一日だ」
壁はすぐさま立ち上がって、瞳のない目でこちらを見た。
そしてその不格好な腕を伸ばしてきた。
「こいつら任せていいんだろ?」
「ああ、役割分担と参ろうぜ」
***
「・・・・おい、まだか?」
「まだっす」
「もう後ほんのちょっとっす」
「もう既に始めてるぞ?」
「そんなスタートと同時に出てどーするんですかっ!」
「インパクトが台無しですよ!」
「開戦のインパクトはそりゃもう一番っすからね!」
「じゃあ先に出てればよかったんじゃないか・・・・」
「それは違うっすよ」
「ええ、全然違うっす」
「確かに今出るよりさっきでたほうがインパクトはありましたが・・・・」
「それはイコール今出ることにはつながりません」
「肝心なのはタイミングですよ!」
「またそれか・・・・せっかく急いで来たんだがなぁ・・・・」
***
最初にこちらに向かってきたのは三体のゴーレム。
一体はクマさんが「カハハ!」と言って猛アタック。
もう一体は木本が「うっらああ!」と叫んで突進。
残る一体を僕とカズタカが「お前やれよ」「いやいやいや譲ってあげるよ」と牽制し合ってた。
その視線の端に別方向からやってきた四体目のゴーレムが映る。
「まずい!そっちは・・・・」
すぐさまカズタカを押しのけて体を起こす。
そのゴーレムの進行方向には桂木がいた。
作戦失敗には早すぎる!
まだ桂木は気付いていなかった。
「桂木ぃー!後ろっ!」
ものっそい不機嫌そうに振り返った顔が一瞬でひきつるのが見えた。
「てんめぇええええ!仕事しろぉおお!」
「<地走り>」
桂木が銃を構えようとした瞬間、そのゴーレムの伸ばした腕が吹き飛んだ。
正確には『切り飛ばされた』。
「あなたの役目は今は走ること。後は私らの役目、でしょう?」
それを聞いて桂木の顔がニヤリと笑い、再度走りだした。
カチン、と金属と金属が当たる音が後ろで鳴った。
「てめぇは・・・・」
木本が校門の方を振りかえって険しい顔をした。
「どっかで見た、かも?」
カズタカは首を傾げた。
「誰?」
振りかえって真っ先に目に入ったのは群青一色の長髪。
それを後ろで一つに結わえ、りりしい顔立ちをした青年がそこにいた。
服装は、時代錯誤な白い袴を着ており、その腰にはなんとも物騒な刀が一本おさまっていた。
勿論こんなやつに身覚えはない。
「カハハハハ!」
クマさんは豪快に笑った。
「やっと来たか!”地走り”愛染!」
その青年も微笑で返した。
「元気そうで、”豪傑”クマ」
***
「私抜きで事を始めよう、とはいささか悲しいものがありますよ?」
「カハハハ!わりぃわりぃ!」
愛染さんとやらは、校門からスタコラ歩いてきて、すぐさまクマさんと談笑を始めてしまった。
クマさんはゴーレムと相対しながら、顔だけを愛染さんへと向けて会話している。
その愛染さんを追うようにして、校門から男が数人駆け寄ってきた。
「はぁ・・・・はぁ・・・・いきなり走りだして!」
「何、してんすか!愛染さん!」
「タイミングを待ってって言ったじゃないですか!」
そして何故か責められていた。
「いや、お前ら・・・・私が悪いのか?」
それに怒るどころか、クマさんに確認を取る始末。
何だこの人。
「思いだした、剣士の人だ!」
そしてカズタカは急に叫んだ。
うん、えっと、腰に刀あるところから一目瞭然だよね?
***
勿論そんな僕らの事情など相手さんが分かってくれるわけもない。
ワイワイしている集団へと、数体のゴーレムが寄ってきた。
「カハハハハ!悪ぃな!手ぇ貸してくれるか!」
クマさんが、相手していたゴーレムの腕を捻って背負い投げを決め込んで、言った。
それに渋々といった形で答える愛染さん。
「はぁ、仕方ありませんね」
そう言って腰の刀に手を伸ばす。
「元よりそのつもりです」
その顔はすっごい楽しそうだ。
この人やる気まんまんじゃん。
腰を低く落とし、左側に下げた刀を押さえるようにして、右手でしっかりと柄を握る。
ずしん、ずしんと歩いてくるゴーレムを待つようにして、ピタリと動かない。
そしてゴーレムがある一定のラインを越えるように足を踏み出した、とほぼ同時。
シャキィン、と綺麗な音とともに抜刀した。
その刃はまるで光のように煌めいて空間を薙いだ。
距離で言えば、愛染とゴーレムとの距離は数m。
勿論愛染の刀はセフィロスみたいに長くない。
普通に考えれば届かない。
が、”地走り”に実質距離は関係ない。
彼の攻撃範囲は刃が届く距離ではない。
その範囲は『斬撃が届く距離』だ。
刀を一回転させ、再度鞘へと差し戻す。
カチン、と綺麗な音がなった。
「<紫電一閃>」
その声が合図だったかのように、先頭を歩いていたゴーレムがどごぁあと土煙をあげて粉砕した。
「え、なん?」
初めての光景にびっくりした。
剣士なんてのを見たのも初めてだし、『斬撃が飛ぶ』なんてもってのほかだ。
「な、強ええだろ!」
ボンっと肩に手が置かれた。
お察しの通りクマさんだ。
「何であの距離で切れるの・・・・?」
「カハハハハ!”地走り”にとってあんなの間合いとは呼べねえってこった!」
いまだ体勢を崩さないで、次の一体を待っている愛染さんが、こちらを振り向かずに声をかけてきた。
「遊んでないで手伝っていただきたいのですが」
見れば、愛染さんについてきていた4人ほどの男たちも、息を取り戻してそれぞれの刀を持って立ち上がっていた。
「カハハハハ!行くぞ坊主!」
ドン、と背中を叩かれて、前に進める訳ないじゃない。
なんだよこいつら、カッコよすぎる。
***
愛染さんの剣技には一つ、決定的ではないにしろ、ウィークポイントがあった。
それは『彼の戦闘法が抜刀術に偏っている』という点だ。
抜刀術は、その名が示す通り鞘から刀を抜くと同時に攻撃を仕掛ける技法だ。
そのため、彼が二度目の抜刀をする時には刀が鞘に入っていなければならない。
ところが敵のゴーレムの追随のせいで、悠長に刀をしまっていられない。。
彼が再度抜刀術を使用したいときには、一旦距離を取ってから、また仕掛けなければならない。
基本は一対一、もしくは瞬時に勝敗を決めるスタイルなのか、彼には高速納刀の技術はないらしい。
敵を切り終えたあとは、緩やかな動きで刀を戻すのだ。
「1から3、返上4」
「はい!」
「らじゃーっす」
それに対する彼なりの解決法がこれだ。
愛染さんの側近(と思われる)全員が帯刀している最大の理由だ。
納刀している暇はない。
だったら既に鞘に収まっている刀を使えばいい。
その間他の人が抜刀された刀を納め続ければ、計算上では無限に抜刀術を振るうことができる。
「でもそんな無茶な・・・・」
戦闘中に、ゴーレムの攻撃がある中で、刀を受け渡し続ける。
まして、片方から渡される刀は抜き身だ。
それが放られるというのは、ある意味攻撃の一種ではなかろうか。
その刀を器用に回しながら、実際彼らは戦い続けている。
やはり愛染さんがダントツに腕が立つようで、他の人は戦うというより、抑えているに近い状態だ。
それでもその隙をついて着実に愛染さんが数を減らしている。
個々の実力もそうだけど、彼らはチームワークが強い。
傍から見たら危なっかしくてしかたがない受け渡しをしっかりこなし、どこの解れもないままに突き進む。
「うまい・・・・」
そう、上手いのだ。
曲芸師でもないただのゴロツキの頭とその手下。
そんな野蛮なやつらの戦いが、あまりにも華麗すぎるのだ。
「カッハッハッハ!あれだからあいつには勝てんのだ!」
「返上2、他全て」
「あいあいよー」
「らじゃー」
「投げるっすよ」
「刀は俺にお願いしますよっ」
「任せやした」
「<紫電─」
迫りくる一体の腕を
「─一閃─」
胴体ごと真っ二つに斬り分ける。
流れるように刀を放り投げ、空を舞う別の一刀を握る。
振り向きざまに、背後の一体を
「─二閃─」
黙らせる。
斜めから斬られたゴーレムはそれだけで活動を停止する。
またも刃を使い捨て、崩れ落ちるゴーレムを足場に飛び上がる。
空中で一本を掴み、着地と同時に
「─三閃─」
正面の一体を討つ。
使った刀を地面に落とし、目の前に落ちてきた刀に持ち替え
「─四閃─」
掴みかかろうとした腕を這うように斬撃が纏い、胴は吹き飛ぶ。
地面すれすれまで落ちた一本を、寸でのところで掴み
「─五閃─>」
一回転し、周囲の敵を鎮圧しきる。
ごうっと風が舞い、瓦礫が転がる中、ちりひとつない円の中に愛染は立つ。
***
一方そのころ、数刻前に件の”地走り”を一発で黙らせた『トリガーハッピー』こと、桂木 修司はというと。
「どこいきゃいいんだ・・・・?」
迷っていた。
日ごろからまじめに授業など受けるわけもなく、惰性で登校していたヤツが、このバカでかい校内を把握しているはずがなかった。
そもそも今目指している『VIP席』とやらの存在を一般生徒、まして問題児に知らせているはずがない。
結果、どうしようもなく、ひたすらグルグルと、知らない道と思うところを、回り続けているのだ。
無論のことながら、目的地のかけらも見当たらない。
「っつーか爺の部屋すら知らねえしなぁ」
知らないらしい。
「きゃは、みぃつけたぁ」
ふらふらふらふら当てもなくうろうろしていたら、そりゃ敵の目に引っ掛かるわけだ。
後ろから声がかかったので、振りかえれば数m先の廊下に一人の生徒が立っている。
髪型はちょっと茶色の入ったサイドポニー。
顔は整っていて綺麗で、その妙にニヤニヤした笑みがなければ、万人受けする顔。
服装は学校指定の制服。
手にちょっと、うん、ちょっと大きいナタみたいなのを持った女子生徒だった。
「誰だお前」
それに全く興味を示さずに、それでも返事だけはと、応答する。
「ひっどーい、桂木君とおんなじクラスなんだけど・・・・」
鉈を持っていない方の手の人差し指でクリクリほほをつついてみるが、いかんせんもう片方の腕が怖すぎる。
まったく愛嬌が感じられない。
「じゃ、自己紹介だ!」
突然パン、と手を叩いた。
器用なことに、ナタは落とさない。
「2年A組、遠藤 キレラ。専攻はぁ・・・・」
両腕を真横に伸ばし地面と平行に、右足を前に膝を曲げ、腰を落とす。
左足はピンと伸ばし、器用にその状態で止まる。
顔だけ前に向けて、右足にぐぐっと力を込める。
「ひーとこーろし、たーんとぉう!」
言い終えると同時にダッシュした。
***
本当に正門担当じゃなくてよかったと思った。
まぁ僕の役目は桂木君を引っ張り出すことだから、そんな役が回ってくるはずがないんだけど。
それを言えば、木本の方か。
こんなんがデデンとやってきて・・・・本当に今大丈夫なのが信じられない。
ていうか、腕も立って、美系でって・・・・何なんだろう。
こんなんがチンピラの頭やってるって絶対間違ってる。
ジャニ○ズ入れよ。
「見てないで助けていただけるとありがたいのですが」
刀の腹で敵の拳を受け、左手を添えなおし、切り返す。
その過程でそんなことを言われた。
「いや、いらんっしょ、僕」
あんたいれば万事オッケーだって。
「カハハハハ!じゃぁまぁ小僧には中を当たってもらおうか!」
「中って・・・・」
「校舎内に決まっとろう!」
決まってるらしい。
ま、ここにいても役に立たないしな。
とりあえず傍にいたカズタカに声をかけてみる。
「だってさ、カズタカ、行こうぜ」
「帰って寝たい・・・・」
2人は不安なので、木本にも声をかける。
「木本も行こうよ」
「ああ、っと。よし、じゃあ行くとするか」
「あれ、僕眠いって・・・・」
これで三人だ。
木本もいるし、大丈夫だろう。
「じゃ、ココは任せます」
「中、入れんじゃねえぞ」
「あの、聞いて、お願い・・・・」
一応クマさん達にお願いしてから、すぐ傍の裏口から校内へと侵入した。
***
初手の横振りの攻撃を、とっさにかわす。
かわし、銃を構えようとしたところに、二度目の上から下への振りおろし。
すぐさま横へと回避をとる。
「ちぃ!」
女性であるせいか、まぁ関係ないと思うが、フットワークが軽い。
最初からその攻撃で仕留める気がないのか、次の攻撃に軽々と変更してくる。
「きゃは、きゃはははは」
くそが。
こっちは遠距離派なんだよ。
まぁ、でも。
「逃げててもー」
やけに身軽で、運動神経はいいのか、すぐさまこちらまでの距離を詰めてくる。
勿論追いついたらその不気味なナタは振り下ろされる。
「おーいついちゃうよぉ?」
ブン、という風切り音とともに刃がこちらを襲う。
超至近距離なら戦えないわけでもない。
「<ナックルバレット>!」
射程範囲、拳の届く距離、という最短飛距離攻撃。
0距離で相手へと銃弾を浴びせる、不可避の打撃。
大ぶりの攻撃なんて、落ち着いて正面からあたれば避けれないこともない。
ならば、カウンターに攻撃を当てることも可能。
「ふっとびやが─」
「んー・・・・あー・・・・案外うぜえな、てめぇ」
頭部へと、真横から強烈な一撃が加わり、なすすべもなく横へと飛ばされる。
引きずられるように壁まで行き、ぶちあたる。
痛む頭で前を見れば、どうやらナタの背で殴られたようだ。
いやそんなことより。
「お前・・・・どうやって・・・・」
あの距離の<ナックルバレット>を喰らって、微動だにしねえだと?
「きゃはっ!」
余裕の表れなのか、痛みでふらついている状態の俺に追撃してこない。
そればかりか、気持ち悪い笑顔でペラペラおしゃべりを始めた。
「どーせそんなこったろうと思ったわ。アタシの能力分かってねぇんだろ?」
器用に片手だけでナタをくるくると回す。
「”自防の圧近”通称『グレインフォート』クラス3」
ヤツとの距離は変わらない。
せいぜい5mかそこらだろう。
攻撃を仕掛けようにも、今の状態では速度で勝てない。
「まぁ簡単に言ゃあ、全身を薄い重力の壁で守ってるっつーわけだ」
クルクル回してたナタをぱしんとキャッチする。
それをこちらに突きつけて宣言した。
「てめぇの銃弾なんざ、アタシにはぜってぇ届かねーんだよ!きゃはははははは」
キンキン響く声しやがって・・・・。
喰らったのは頭に一発だ。
こんだけの時間休めれば十分だ。
「んじゃまぁ、言いたいこといろいろありそうだけど、ここで殺されろや。きゃはは」
一発防いだ程度でまぁはしゃいじゃって。
「たかがクラス3がほざいてんじゃねぇよ」
「絶対最強クラス3みてぇな?きゃはははは。勝ってみろよクラス5」
***
「あの、僕・・・・」
「うっせぇよ!」
「やっと聞いてもらえへぶるあっ!」
きゃんきゃん吠えてたカズタカに遂に木本が切れた。
校内に入ってからずっと横で騒いでて、ほんと気持ち悪かった。
ナイス、木本。
「あの、だから僕・・・・」
「しゃべんなカス、殺すぞ」
「あれ、仲間だよね・・・・?」
あっはっは。
カズタカは何を言ってるんだか。
それにしても人気がない。
現在歩いているのは廊下である。
だったらちょっとは反響音でもしているはずだ。
それなのに、生徒の悲鳴どころか、騒ぎ声もしてこない。
まるで誰もいないみたいに。
「おっかしいなぁ・・・・」
「ああ・・・・おかしいぜ・・・・」
「静かすぎるよね・・・・」
「全くだ・・・・」
どうやら木本も異変に気付いているようだ。
「さっきまでうるさかった声がしなくなったと思ったら、あの野郎どこ行きやがった!」
「ほんとだ!いなくなってる!」
振りかえればさっきまで騒ぎ、喚きまくっていたカズタカがいない。
こんな大仕事を前に、自分の役目・・・・なんてないけど、ほっぽりだして逃げやがった。
「あ、のやろぉおおおおおお!」
案の定横で木本が猛り狂っている。
あいつは何がしたいの。
本気で殺されたいの。
***
ちゃぷ、ちゃぷと、水が揺れる音がしている。
それは一人の青年、少年と言うには少し大きい、が立てている音だ。
座って、指先で揺らして音を出している。
揺れているのは液体。
液体の色は深紅。
源は傍らで横になっている一人の生徒。
返り血でぐしょぐしょになっているものの、よく見ればその青年も同じ制服を着ていた。
「で、何で一人でひっかかりにきたの?うん?」
その青年が言葉を発した先にいたのは、別の学校の制服をきた男が一人。
「何、その顔?何をそんなに怒っているの?うん?」
その男の顔は、決して友好的なそれではなかった。
わなわなと唇を震わせ、怒りで拳は握り締められている。
「同じ、仲間なんじゃないのかよ・・・・」
「うん?こいつが?こんなの・・・・ただの僕の暇つぶしの『道具』だろう?」
「同じ学校に通ってる同級生じゃないのかよ・・・・!」
はぁ、とため息をついて青年は立ち上がった。
「一緒にしないでくれないかな?こいつらはただの飾りだよ?僕らはエリートなの、分かる?」
男の拳がギリギリと音を立てる。
「こいつらは僕らの役に立つくらいしか能がないんだよ?せめて僕の暇くらい潰してもらわないとね?」
「分かった、もう何も言わない」
男の姿勢が変わった。
「代わりに僕が、その腐ったお前の脳みそごと潰してやる!」
「うん?不思議なことを言うね?『道具』なんかが僕とやりあえると思ってるの?」
交渉の余地なし。
男は腰を落とし、地面を蹴った。
「<カノン>!」
***
「お初にお目にかかります」
その生徒は突然目の前に現れた。
突然、もう一度言うが、そう言って過言ではないほどに。
「・・・・何だお前」
そんなやつに臆することなく声をかけた木本はやはり大物なんではないだろうか。
「ご紹介が遅れました。私、渡 辰彦と申します」
ぺこりとお辞儀した。
「・・・・」
流石に普通に名のられたことに対しては言葉がでないようだった。
カズタカがいつの間にか逃走したことに気づいて、一通り怒り狂った、主に木本が、しばらく後。
仕方ないから二人で校内をうろついていたところ、何もないはずの、一本道の、廊下のど真ん中にその生徒は出現した。
もうビックリというか、ギョッとして僕はパクパクと口を開閉。
木本もびくりと立ち止まり、上記のように問いかけた。
という流れだ。
別に名前を聞いた訳じゃないだろうに。
物腰が妙に丁寧なせいか、完璧に敵であるのに、いまいち戦意が湧かない。
何で敵かって、来ている服が律正のものだもの。
「っと、言い忘れるところでした。危ない危ない」
急に何かを思い出したように、渡 辰彦が二の句を続ける。
「所属『アウトバンカー』、能力”螺追の鼓動”通称『ラピッドフット』で御座います」
「これはこれはどうも御親切に、僕は高原 とぉあいたっ!」
木本にゲンコツで頭を殴られた。
ちょっとしたユーモアだろ、これくらい。
「で、そんなお前が俺らに何のようだ」
「伝え遅れました、それには一つ大きな理由が御座います」
何故か申し訳なさそうな顔。
「お二人を『排除せよ』との命が出ておりますゆえ・・・・」
「・・・・あれ、聞き間違い?」
「誠に悲しきことなのですが」
「あの、ちょっと、人の話聞いて・・・・」
「『殺戮』させていただきます」
その顔はすごく残念そうだった。
でも言ってることは、ぶっとんでた。
さっきまでの物腰・・・・いや、物腰は丁寧なままだけど、優しさを返して。
「それでは参ります」
「おい、下がってろ高っちょ、俺がやる」
ぐい、と服を引っ張られ、木本が前に出た。
「簡単に『殺戮』出来ると思うなよ!<アーマー>!」
てすてす