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あれおかしいな・・・・みぎの9のすうじがみえないぞ





 もう3カ月切ってるじゃないですか。
笑いごとじゃないっすよ。
こないだの更新が100日きってるどうしよう。
今回は90日きってる笑ってらんねぇです。
 はは・・・・はは・・・・。
 じゃ、今回も追記に入れときます。
律正編の後日談です。
これでやっとの一区切り。



 僕は何も知らなかった。

 無理やりに過去を覗いて、二人の関係をばらして、一人の墓を荒らしてしまったというのに。
何も理解していなかった。
 たった一人の女子生徒相手に、彼女の周囲の環境、彼女にとっての世界そのものが敵対するという『異常な状況』。
それをただ盗み見ただけの僕ははっきりと認識していなかったのだ。

 ***

「じゃあね」
「うん、また明日」
 そう言って僕らは別れた。
暗い夜道を、ほとんど会話らしい会話をせずにトボトボと歩き続け、結局僕の家の前まで来てしまった。
 家に入る前に携帯を見る。
時間はちょうど9時をすぎたころだった。
リビングと思われるところから洩れる光を見るに、どうやら親が帰ってきているようだ。
 チャイムを鳴らさずに扉を開く。
別にそうする必要もないのに、ばれないように静かに扉を閉め、「ただいま」も言わずに二階へと上がる。
「っふう」
 いつもの癖で、カバンを机に放り投げようとして、今さら自分が手ぶらなのに気付く。
勝手に学校を早退したせいで、荷物は全部置いてきてしまっていた。
 だからと言ってどうということでもない。
初めての置勉だなぁ、と思っただけだ。
 そのままタイを緩め、ばふん、とベットに倒れこんだ。
僕は年がら年中暑い体系なので、常に掛け布団はタオル地のものだ。
じんわりと汗ばんだ僕の肌を、タオル地は触れるだけで水分を優しく取り去ってくれる。
「疲れたなぁ・・・・」
 そう呟いたのは覚えている。
後はまどろむ様に視界が消失した。

 ***

 墓はからっぽだった。
あったのは彼女を模した棺桶だけ。
中に入っているはずの遺体は存在していなかった。

 僕は耳にしていたはずなのに。
「あいつは危険だ」
「関わるな」
「化け物」
 彼女を象徴するそれらの言葉を、しっかりと聞いた上で、一切気に留めなかった。
あの惨劇は僕のせいだ。
 無知な、ただの好奇心で神聖な遺影を汚した僕への罰だ。
僕のせいでカズタカと木本は傷を負ってしまった。
その上で、あわよくば木本だけは平気であって欲しい、と愚かにも期待してしまった。
 どこからが僕の罪かと問われれば、それはもう、墓荒らしをしたあの瞬間からだろう。
「人の心を」「理解」することなどできないのに。

「理解しているつもりです」

 なんと愚かであっただろう。
愚かで無知で、どうしようもない悲劇を産みだしてしまった。
 僕のせいだ。
僕が彼をけしかけた。
僕が彼の手をひっぱった。
全部ゼンブ、オマエノセイダ。

 ***

「っ!?」
 目を開けると、真っ暗な空間が広がっていた。
心臓がドクドクと唸る。
血管がビクビクと呻く。
じとっとした汗が首周りをねっとりと締め付け、息苦しさでヒューヒュー喉がなる。
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
 荒い呼吸を落ちつけ、なんとか立ちあがる。
部屋のドアの横についているボタンを押し、電気をつける。
寝る前に消した記憶がないから、確認にきた親が消してくれたのだろう。
 ドアを開き、真っ暗な、まるで地の底に続いているかのような、階段を下りる。
ギシギシ、と鳴る階段は、今にも底が抜けて落っこちそうだった。
 リビングまで降りてきて、手探りで冷蔵庫を探す。
中に入っていた冷えたお茶をコップに注ぎ、何かを流し込む様に一気に飲み干した。
コトン、とコップをおろし、体に染みていく冷気を感じる。
言いようのない、快感とも不快ともつかない、とにかく何かを感じている感覚。
生きている感覚。
 手に持ったままにコップがカタカタと揺れる。
それを見ながら「馬鹿だなぁ」と呟く。
こんなに震えてるじゃんか。
こうやって流し台に手をついてないと崩れ落ちそうなほど怯えてるじゃんか。
音もなく、ポトン、と雫が落ちた。

 パチン、と音がしてリビングに明かりがついた。
驚いて振り返ると、入口に父さんが静かに立っていた。
「眠れないのか」
 そう尋ねる父さんの目を、直視できずに下を向く。
今の僕の目はきっと赤い。
「うん、でももう寝るよ。おやすみ」
 コップを流しに置いて、今度は手を放す。
なるべく父さんを見ないようにして、リビングを去ろうとした。
 その僕を父さんは呼びとめた。
「話してみなさい」
 僕は父さんに何も言っていない。
今日、夜遅くに帰ってきて「ただいま」も言わずに部屋に直行した。
まるで隠れるようにして眠りについた。
 父さんはそんなことを咎めはしなかった。
ただ「話して」みろとだけ言った。
「うっ・・・・うう」
 一粒だけで止めるはずだった雫は、ポタポタと流れ出した。
父さんは僕を振り向かせ、正面から僕をやさしく抱きかかえて、1,2度背中を叩いてくれた。

「話したくないことは言わなくていい。ただ言いたいことだけ吐き出せばいい」
 僕は父さんと二人でリビングにあるソファーに座った。
二人そろって深く腰掛け、僕は沈み込む様にしていた。
 しばらく沈黙が続き、ポツリポツリと僕の口から言葉が漏れ出した。
律正学園のバイトで桂木 修司という高校生に会ったこと。
律正学園が危ない状況にあると分かったこと。
友達は僕に「関わるな」と言ってくれたこと。
でも僕は勝手に首をつっこんでいったこと。
 とりとめもなく、おそらく文脈もないようなただの戯言を、父さんは無言で聞いてくれた。
友達二人を巻き込んで律正に突撃していったこと。
桂木 修司をなんとか説得しようと奮闘したこと。
そのためにしてはならないとこをしてしまったこと。
 一言一言発するたびに、心の中に穴があいていくようだった。
僕の行為は全くの無駄だったんだ、と再確認しているようだった。
 クマさんと知り合ったこと。
僕らの頑張りが全くの別物だったこと。
事実を知って、桂木と一緒に再度乗り込んだこと。
桂木の、引いては僕らの為にクマさん達が体を張って闘ってくれたこと。
同じように木本とカズタカが戦ってくれたこと。
そして、
「桂木をみんなで追いかけて、そしたら銃声がして、下の階で・・・・」
 声が詰まった。
じんわりと目に熱がこもる。
「下の、階、で・・・・」
 ポン、と父さんが背中に手を置き、そのままさすってくれる。
「ゆっくりでいい」
 目に溜まった水分は、なんとかこぼれおちないようにこらえてくれた。
嗚咽交じりで一度息を吐き、それでも続けようと言葉を紡いだ。
「律正、の、校長と、桂木がいて・・・・」
 家の中だろうと外だろうと変わらない、じっとりとしたむさくるしい気温。
そんな環境にいるにも関わらず鳥肌が立った。
「校長が、はじけとんで、何も、何もできなくって・・・・」
 うつむいて顔を覆う。
こぼれ出た涙を手でぬぐい、唇をかみしめた。
「全部、僕のせいなんだ」
 まるで懺悔するように、いや実際にこれは懺悔だった。
「僕が余計なことを、したから・・・・」
 余計な傷を作ってしまった。
誰の得にもならないことをしてしまった。

「徹」
 うずくまる僕の背中をなで、父さんは僕の名前を呼んだ。
答えようにも、嗚咽が口をついで止まらない。
「徹がやったことは本当になんの為にもならない悲劇だったのか?」
 悲劇。
誰にとってもアレは悲劇だ。
『彼女』の弔いなんてのは残された人の自分勝手なわがままにすぎない。
こんなことをしたからと言って『彼女』の無念が晴れるわけでもない。
「私はそんなことは思わない」
 嘘だ。
父さんはアレを見てないからそんなことを言えるんだ。
「確かに目の前で人が、それもそんな形で亡くなってしまったことは悲しいことだ」
 父さんの声は穏やかだった。
僕を攻めるでもなく、問い詰めるでもない。
「決しておろそかにしていい出来事ではないし、ちゃんと受け止めなくてはならない」
 いつの間にか父さんは僕の背中をさするのをやめ、肩に手を置いている。
「だが囚われてはいけない」
 肩で感じる父さんの体温は心地よいあったかさだった。
「その桂木君は『彼女』をなくしてから一年間、ずっと救われない日々だったろう。
それを徹。お前が助け出したんだ」
 無理やりに手をひっぱって、暗黒の暗闇から引きずり出したけれど、その先も同じように濁った世界だったんじゃないのか。
ただ僕は塞ぎ閉じ込めた傷口をえぐり、弄っただけじゃないのか。
僕は誰も救い出してないどいない。
「違う!」
「違わないさ」
「そんなことっ!」
「彼はお前に感謝してる」
「そんなこと、僕は期待しちゃいけないんだ・・・・」
「・・・・私はね、徹。”アビリティ”はホルダーそのものだと思っているんだ」
「・・・・?」
 父さんと母さんはホルダーではない。
”アビリティ”は遺伝的なものでもないし、起こる原因も不明だ。
「その人の思い、気持ち、悩み、そういった心の内を外に出すシステムだと思っている」
「システム・・・・」
「人はなかなか自分の本音を他人に言えないものだ。好き、嫌い、そんなことすら表現しにくい、困った生き物だ。
これはそんな人間に神様がくれたツールなんだよ」

 『ホルダーの考え、思考、はたまたその日の気分によって能力は著しく変化する』。

「絶望に苦しむ人間は、他人に自分の心中を吐露する、なんてことはしないし、できない。
自分の殻に閉じこもって、ただひたすらうずくまるだけだ」

 『彼女』を『殺した瞬間から何の音沙汰もなく平穏に暮らしていた』。

「そんな彼が自分で自分を撃ちだしたんだ」

 『君の『トリガーハッピー』で打ち出す弾は君自身だ』。

「システムが正常に作動しはじめた。それを治したのは誰だろうね、徹」
「僕は、僕のしたことは・・・・」
 横にいる父さんを見上げた。
今の僕の顔は、怯えた子犬のように震えているだろう。
「悪いことじゃなかった・・・・?」
 父さんは僕の顔を見て、ニッコリ笑って頷いた。
「僕のしたことは、誰かを傷つけるだけのものじゃなかった・・・・」
「ああ」
 今度はそう言ってくれた。
「僕のやったことは、これでよかったっ・・・・!」

 ***

「僕は、ううん。私は、修司に会えてよかった」
「なっ!?」
「修司はどうなのかな?」
「そ、そんなことどうだっていいだろっ!」
「んー?んー?何かなー?何かなー、その反応は?」
「お前そうやって人をからかうのいい加減止めろよ・・・・」
「はははっ!すまないすまない、つい君が可愛くてね」
「だから止めろって!」
「で?どうなのかなぁ?」
「・・・・ったよ」
「もっと大きい声で言って欲しいねっ」
「ありがとう、感謝してるっつったんだ」
 イヤミなほどによく似合う皮肉げな笑い方だ、と思った。
隣には見たこともないような、綺麗な女性が座っていた。
二人で仲良く座っていた。

 ***

 僕は毎朝一人だ。
両親はいつも早い。
だから僕が起きる頃にはすでに家にいない。
 この生活にも慣れたものだ。
いつものようにトーストを焼き、冷蔵庫からマーガリンを取りだす。
香ばしく焼けたパンの上にたっぷりのマーガリンを塗りつければ、じんわりとすぐに溶け出す。
うん、美味しい。
 たぶんあのままだったら、こんなふうに朝ごはんすら食べる気力も湧かなかっただろう。
自分の行為を悔いて、否定して、嘆いて。
意味もなく落ち込んだままだったろう。
もう大丈夫だ。
 父さんは言った。
”アビリティ”は「システム」だ、と。
悪くない、むしろ面白い。
そうすると、心の内を外に吐き出せない人が”アビリティ”を持っているということになる。
つまり、ホルダーは総じて恥ずかしがり屋さんか。
あの木本もか・・・・面白いじゃん。
 と、考え事をしながら首を回したときに、壁にかかった時計が目に入った。
「や・・・・っべぇ」
 朝は考え事をするべきではないと学んだ瞬間だった。

 学校へと続く上り坂。
幸いにも僕は今、ここを全力疾走してまで急がなくてはいけない状況ではない。
あれから急いで家を飛び出したおかげで、今はちょっとだけ余裕がある。
 一歩一歩足を進めるごとに、いろんなことが頭に浮かぶ。
少なくとも今、自分の起こしたことを後悔はしていない。
僕がああしたことで、あの狂気のサイクルは止まったんだ。
ポジティブに考えよう。
 だけど僕は謝らなければいけない。
何の関係もなかった二人を巻き込んで、なおかつ傷つけたこと。
それは謝罪しなくてはならない。
許しては、もらえないかもしれないけれど。

 律正学園ほどではないにしろ、丘の頂上を覆うように存在する春が丘中学。
それなりに大きいことは大きい。
 そういえばここにはいつも木本が毎朝たむろしていたなぁ、と思いながら校門をくぐる。
今木本の周囲には、かつての取り巻きはいない。
校内の生徒であった彼らは、今では木本を馬鹿にしてさえいる。
僕のような弱者に負けた軟弱物、と。
 彼を慕っていた人は皆離れ、クラスの人は彼をまだ悪人だと思っているだろう。
木本は孤独だ。
こんな状態にしたのも僕だ。
 僕が彼と戦わなければ、僕が<キューピッド>を使わなければ、彼はまだ楽しくやれていたのかもしれない。
如月さんを遠くから眺める一生徒として、ただ憧れるだけだったかもしれない。

 敷地を歩き、僕のクラスがある校舎へと入る。
一階のこの廊下をちょっと行った先に保健室がある。
 カズタカはあの時僕の身を案じて「止めろ」と忠告してくれた。
あんな路地裏の、あんな危ない奴に突進してまで僕を助けてくれた。
 それなのに僕は裏切った。
なんの考えも無しに関わって、なおかつ如月さんを巻き込んでしまった。

 階段を上り、僕らの教室がある階まで上がっていく。
そして今回の律正学園。
 毎回毎回、僕の勝手な行為に皆を巻き込んで、危険にさらして、そして今回はあんなことになってしまった。
本当に申し訳ないことをしてきた。

 教室の扉の前までやってきた。
後はこの扉を開いて、ちゃんとしっかり謝るんだ。
 覚悟はできている。
今更怯えてなんていられない。
「ちゃんと受け止めなくては」いけない。
怒られて、怒鳴られて、泣かれても、それでも僕は逃げちゃだめなんだ。
 ガラッ、と勢いよく扉を開き、自分の机へと向かう。
いつもは感じない、自分を突き刺すような視線。
受け止めるんだ。

 教室を見渡し、カズタカと木本、そして如月さんを見つける。
「ちょっと話したいことがあるんだ」
と1人1人に声をかけ、屋上に続く階段まで来てもらった。
 如月さんに声をかけたときは、一緒にいた女の子に凄い目で睨まれた。
すぐに如月さんにもこんな目で僕を見るんだろうなぁ、と思うと苦しかった。
 3人は僕が何か言うまで黙っている。
「その、僕は」
 やっとのことで最初の一言を発する。
握った拳にじんわりと汗が染み出る。
「僕は皆に謝らないといけない」
無理やりに顔を上げ、皆の目を見る。
どの目も、僕には責めているように感じた。
「僕は木本の居場所を奪った」
 如月さんを助ける、なんて格好つけて、暴れまくった。
「僕は如月さんを危険な目に合わせた」
 恐怖に逃げかえって、暴力を学校内にまで持ち込んでしまった。
「そして僕はカズタカと木本に、癒えない痛みを作ってしまった」
 自分勝手な行いで、あんな光景を産みだしてしまった。
見せてしまった。
「ごめんなさい」
 頭を下げ、床を見つめる。
視界の中に、3人分の靴が見える。
その内の一つが僕に向かって飛んできたとしても、逃げないで受けようと思った。

「は、ははははは!」
 突然の笑い声にビックリして顔を上げると、木本が口を大きく開けて笑っていた。
隣に立つカズタカも如月さんも笑っている。
「なーに言ってんだ、てめぇはよ」
 木本の手が僕へと伸び、頭を掴んだ。
「誰もお前を責めちゃいねーよ」
カズタカがコクリと頷き、如月さんはニッコリとしている。
「あいつらが俺から離れてったのはただ単に俺が弱かっただけだ」
「木本・・・・」
 木本が僕から手を離し、腕を組む。
「高原君は私を危険な目に合わせたって言うけれど、私は今こうして元気にしてるじゃない」
 如月さんは手を後ろに回していた手で、僕の手を引いた。
「高原君は私を守ってくれた。そうでしょう?」
「如月さん・・・・」
「高っちょは今更何言ってんだよ」
 カズタカがバシンと僕をはたいた。
「僕と高っちょの仲じゃないか」
「カズタカ・・・・」
「ちょっとは僕らの事を信用してくれたっていいんじゃない?」
 僕は今まで取り返しのつかないことをしてきたって言うのに。
許してくれなんて言える立場じゃないって言うのに。
「ごめん、ほんとにごめん」
 おかしいな。
涙が止まらない。
「ったく、いつまでもウジウジ謝ってんじゃねーよ」
「高原君はいっつも笑ってないとねっ」
「ありが、とう・・・・!」
 涙を拭いて、僕はようやくニッと笑った。

 カズタカの
「教室に戻ろう。暑い、死ぬ」
という言葉に笑いながら、みんなして教室まで戻った。
ずいぶん話していたようで、到着したころに鐘が鳴った。

 しばらくして担任が教室へと入ってきた。
その瞬間、担任の異様にうれしそうな様子を見て、忘れてはいけないことが頭をよぎった。
 カズタカも同じように思いだした様子で、
「あっ!」
と小さく声をあげていた。
 教壇の上に立った担任は、全員が着席していることを確認するようにクラスを見渡す。
そしてその口がゆっくりと開いていく。
やめろ、やめてくれ。
「さぁて、全員いるなぁ?」
 なんでそんなに上機嫌なんだ。
お前はそれでも教師かこの野郎。
「お前らお待ちかねの」
 ここで木本が「おっ・・・・」と声をあげた。
今頃思いだしたことがあるようだ。
「『一学期テスト』はじめるぞ!」
 あーあ。
こりゃ補習決定だな。

 ***

「はぁ・・・・」
「はぁ・・・・」
「・・・・くそっ」
 地獄のようなテストを終え、今はただひたすらに消沈していた。
何がテストだよ。
ひたすら能力に関する知識の確認テストをしやがって。
こんな能力のせいでロクに授業なんて受けていないっていうのに。
 それに最後の実技なんておかしいだろ。
全員平等ってどういう神経してんだ。
どうやって壁を打ち抜き、大ジャンプをして、罠を抜けろって言うんだよ。
「無茶苦茶だろ・・・・」
「全くだ・・・・」

「あ、そういえば高っちょ」
 何かを思い出したようにカズタカが声を上げた。
「あの旅行の話なんだけど」
「しまった・・・・そんなんもあったな確か」
 元はと言えばこいつの旅行話のせいで律正でバイトせねばならなくなったんだ。
バイト代ももらえそうにないし、今更100万どうしよう。
「なんか連絡つかないんだよねぇ」
「んん?」
「電話しても繋がないんだよ」
 どういうことだろう。
まだお金も払ってないけど、もしかして行かなくていいってことなのかな。
「100万帳消しってこと?」
「うーん、どうなってるんだろう」
 連絡できないんじゃあお金を払いようにも払えないしなぁ。

 カズタカ達と別れ、1人帰ろうとしたところに如月さんが話しかけてきた。
「高原君っ、一緒に帰らない?」
「なな、いいの!?」
 知らず知らずのうちに一体どんなフラグを踏めばこんなことになるんだろう。
もしかして僕って天才なんじゃなかろうか。
 そんなこんなの帰り道である。
「木本君の時も、高原君、助けてくれたよね」
「ああ、あれ・・・・」
 こんな僕を帰り道に誘うくらいだ。
何か話があるんだろうなぁと思ったら案の定だ。
「私が保健室で寝込んでた時も、高原君が助けてくれたってお父さん言ってた」
「あれは助けたっていうのかなぁ」
 どっちかっていうと思いっきり危険な目にあわしてる。
巻きこんでしまっている。
「イヤだって思った」
「・・・・・・・・・・・・・え」
 まさかそんなに嫌われてるとは思わなかった。
まじで、え?
ちょっと待ってくださいよ。
 さっきまでの『一緒に帰宅イベント』に浮かれていた気分は吹き飛び、今は『困惑葛藤絶望タイム』だ。
「え、え、一体どういう・・・・」
「私の代わりに高原君が傷つくのはイヤだって思った」
 如月さんと僕は並んで歩いている。
僕は思わず如月さんの顔を見たけれど、如月さんはまっすぐ前を向いたままだ。
「私の為に、ううん。きっと私だけじゃない」
 無理やりに前を向いて、僕の方を向こうとしていないように見えた。
「誰かの為に一生懸命にしてる高原君はすごいと思う、でも」
如月さんはそこで立ち止まって僕を見た。
つられて僕も歩くのを止める。
「高原君がそれで痛い思いをするんだったらやめてほしいって思った」
「如月さん・・・・」
「どうしてそんなに、危険な目にあったりもするのに、誰かの為に動いちゃうの?」
 如月さんの目は、心配そうに僕を見ていた。
「・・・・僕はね」
 如月さんから目を離して、今度は僕が歩き出す。
如月さんもつられて一緒に歩く。
「一度大切な人を見捨てたんだ」
 自分の身可愛さに。
「その人の心を裏切って、背を向けたんだ」
自分で自分が許せなかった。
守れたはずの心だった。
汚されるはずのない思いだった。
「・・・・僕はもう誰も見捨てない」
「でもそしたら高原君が・・・・」
「逃げる方が辛いよ」
 怯えて尻尾を巻いて逃げて、隠れて震えてたって、見捨てた罪悪感は僕を苦しめる。
「僕は一度逃げ出した」
 君を置いて逃げ出した。
あの時の気分はもう味わいたくない。
「逃げ出して逃げ出して、誰かが助けを求めているのに耳を塞いでたんだ」
君が心の中で叫んでいる声を、僕はしっかりと聞いていたのに聞かないふりをした。
「もうそんなことはしない」
ちゃんと全部、苦しいことも聞くって決めたんだ。
そう、自分で決めたじゃないか。
「誰かが苦しんでいるのをほっとくなんてこともうしない」
 君が苦しんでいるのを見捨てて逃げたりしない。
「そ、っか」
「心配してくれてありがとう、でも、ごめん」
「ううん。私も勝手なこと言っちゃってごめんなさい」
 自分で決めた、というのは責任を負う覚悟をした、ということだ。
僕はそんなことを見失ってあんなにうろたえてしまった。
覚悟が、足りなかった。

 その後はごく普通の会話をしながら帰宅した。
「そういえばお父さんが『旅行会社』の詐欺してた人たちを捕まえた、って言ってたよ」
「詐欺?」
「うん。なんでも法外な値段を請求して騙し取ってたんだって」
「へぇ・・・・」
 明日カズタカに教えてあげよう。
 一時の甘い時間はすぐに過ぎ去ってしまう。
「じゃあね。また明日」
「うん、ばいばい」
との挨拶をして、僕らは別れた。

 ***

 次の日である。
「そういえばカズタカ、あの旅行の話だけどさ」
「ああ、あれ。やっぱり何度電話しても繋がらないんだよね」
 予想通りに何の音沙汰もないようだ。
「これほんとにお金払わなくていいんじゃない?超ラッキー?」
「ラッキーも何もお前が勝手にドツボにはまったんだけどな」
 何はともあれ、どうやら例の『旅行会社』だったようだ。
流石に10日で100万は法外だよな。
そりゃ捕まるわ。
「おそらくその『旅行会社』罰せられたんだと思うよ」
「・・・・え、どういうことなの」
「あまりに高すぎな金額設定だったしさ」
 如月さんから聞いた話を、噂話としてカズタカに話す。
どうやら如月さんはお父さんが執行者だっていうのをあんまり話したくなさそうだったからね。
僕もその気持ちは分かるつもりだ。
「うーん、そっかそっかぁ」
 とあっさり納得し、二の句を続けた。
「じゃあ夏の旅行を改めて考えようか」
 え、まだ行きたいの。
懲りたんじゃないの。
「もういいじゃん、補習もあるんだしさ」
「えー。どっか行こうよー。せっかくの夏休みだよ?」
「でぇもなぁ」
 教室の端っこでわいわいやっているのに気がついたのか、木本が近寄ってきた。
「お前ら何の話してんだ」
「みんなで旅行に行こうって話」
「ほう。どこ行くんだ」
「まだ決めてないんだけどねー」
 なんで行くことは決まってるんだよ。
「おう、だったら良いとこ知ってるぞ」
「まじでっ!」
 完全に僕アウェイかよ。
なに二人で楽しい旅行計画してんだよ。
旅行はプラン立ててる時が一番楽しいよね。
僕は絶対行ってやらないからな。
「なにしてんのー?」
 木本が加わってさらにうるさくなったせいか、如月さんまでもがやってきた。
「みんなで旅行に行く話ー」
「えー、なになに!どこいくの?」
「それはねー・・・・」
 なんだよお前ら。
肝心なところを小声でひそひそしやがって。
もっと大きな声でだな。
「えー!私も行きたい!ねぇ、参加していい?いい?」
「いいよー。やっぱ人数多い方が楽しいからね」
「俺は別に、来ても全然問題ないっていうか、その・・・・」
 何だと。
如月さんも参加するだと。
「お願いします。私もご一緒させてください」
こんな話ほっとけるか。
「何言ってんの。高っちょは班長だよ」
 なにその役割分担。
勝手に決めんなよ。
「班長、しおり忘れんじゃねえぞ」
木本もなに栞とかかわいいこと言ってんの。
「よろしくねっ!班長さん♪」
まじかわいいよ如月さん。
語尾に音符つくほどかわいかったよ。
任せてくださいよ。
しっかり班長の任をまっとうして見せますから。
「で、肝心の行先はどこなのよ」
「ふふふふ。それはね・・・・」

 ***

 夏休みまで残り数日。
生徒達は当然、教師陣もだらけムードだ。
僕らも勿論夏休みが楽しみだ。
なんてったって如月さんとの旅行だからね。
 如月さんは
「やっぱり私1人はさみしいから、友達誘ってもいい?」
なんて可愛く言うもんだから、男陣はもう首が壊れるくらい頷いたよ。
「ほんとっ!じゃあ早速話してくるねっ!」
ってぴょこぴょこ走ってく後ろ姿なんてもう、ほんと天使と見まごうほどだったよ。
 それに女の子が増えるってのは花が増えてきっと楽しくなるに違いない。
こんなに楽しみな夏休みも初めてだ。

 何より、この旅行を通して少しでもあんな光景を忘れてくれたら、と思う。
なんだかんだ言って、やっぱりカズタカは僕を助けてくれる。
如月さんが参加する企画ってだけでありがたいものだし、何より気晴らしにはうってつけだ。
 木本も僕らをちょっとでも仲間、この場合は友人かな、と思ってくれたら嬉しいな。

 精一杯楽しもう。
遊んではしゃいで、疲れてぐっすり眠って、そしてまた遊んで。
満足して帰ってこよう。
 さぁて、早速帰って準備しなくちゃ。
父さんと母さんにも話さないとね。
 ああ、ダメだ。
顔がにやけて止まらないよ。


てすてす

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    変態お兄さんズ:名言集
    ---最新---

    オオスミ(自宅兵士) スカート履いててよかった。



    ---過去---

    オオスミ(自宅兵士) かわいいかかわいくないかは問題じゃないんだよ。問題はパンモロできるかどうかなんだ。



    ファイム 今からヤるんだぁぁぁぁぁ!



    ことみ
    男の娘もいいね!



    暇人
    俺男の娘だから今女装してるんだ。



    ニタロ
    SRよりスナのほうが使い易い。



    くれない
    オレはファイムと精液が同じなんだ



    くれない
    ペドフィリアってかっこいいよね



    ざんちゅー
    水色パンツうひゃひゃひゃひゃwww



    カズタカ01
    痩せてるオレは可愛いんだ!



    くれない
    そのふとももがいけないんだ!そのふとももがオレを狂わすんだ!



    くれない
    パンツはいてるのは問題だろ。



    カズタカ01
    お前幻覚を聞いているんだよ。



    ファイム
    なんで暇人のカーチャンそんな素敵な声なんだ。



    ざんちゅー
    勘違いしないでほしい。俺がエロゲをやるのは愛がほしいからなんだ。



    ファイム
    最近、男の子がいいと思うんだ。



    オオスミ(自宅兵士)
    アヘ顔とか・・・
    アリだろ



    ファイム
    え、俺、童貞じゃないんだ。ごめんね。



    オオスミ(自宅兵士)
    ちょっともう少しで[同級生♂]が攻略できそうなんですよ。



    暇人
    今日から俺はアイドルだ!



    暇人
    2次元に性別の壁なんて関係ない!

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